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東京高等裁判所 平成5年(行ケ)49号 判決

東京都新宿区西新宿2丁目1番1号

原告

三和シャッター工業株式会社

同代表者代表取締役

髙山俊隆

同訴訟代理人弁理士

稲葉昭治

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 麻生渡

同指定代理人

藤木和雄

青木良雄

関口博

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者が求めた裁判

1  原告

「特許庁が平成3年審判第1859号事件について平成5年1月28日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決。

2  被告

主文と同旨の判決。

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和60年6月17日、意匠に係る物品を「建物用窓シャッターのガイドレール組立て材」とする意匠(以下「本願意匠」という。その形態は別紙平成3年審判第1859号審決写し別紙第一のとおり。)について意匠登録出願(昭和60年意匠登録願第25581号。以下「本願」という。)をしたところ、平成3年1月19日、拒絶査定を受けたので、同年2月14日、これを不服とし、審判の請求をした。

特許庁は、同請求を平成3年審判第1859号事件として審理をした結果、平成5年1月28日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をなし、その謄本は、同年3月24日、原告に送達された。

2  審決の理由

審決の理由は、別紙平成3年審判第1859号審決写し理由欄記載のとおりであるが、その要点は、本願出願前である昭和59年6月29日公開の昭和59年実用新案出願公開第96294号公報の第5図〈3〉に示された意匠であって、その形態を別紙審決書写し別紙第二のとおりとする意匠(以下「引用意匠」という。)を引用し、本願意匠は、引用意匠に類似するのであるから、意匠法3条1項3号に該当し、意匠登録を受けることができない、というものである。

3  取消事由

(1)  審決の理由の認否

〈1〉 本願意匠の出願日、引用意匠の公開日、両意匠の形態及び意匠に係る物品が審決摘示のとおりであって、両意匠の意匠に係る物品が一致することは認める。

〈2〉 本願意匠と引用意匠との基本的構成態様における一致点の認定は認める。但し、具体的態様における一致点について、これを基本的構成態様に含めずに認定した点及びガイドレール枠材の左端寄り係合片を「小さな」と認定した点は争う。

〈3〉 相違点の認定のうち、本願意匠の具体的態様について、下地枠材(別紙1の説明図参照、以下同じ。)において、ガイドレール取付片を窪みの度合によって「やや奥行のある」と認定した点、ガイドレール係合片の略半円形状片を「小さな」と認定した点、上辺部の両端部に形成した突片を「極小」と認定した点、ガイドレール枠材において、下辺底面部(正面部)に形成した左右端部の凸部及び凹部面の二本の突片について、それぞれ巾狭、極小と認定した点、上辺部(下地材係合面部)の左端寄り係合片を小突片と認定した点については争い、その余は認める。

〈4〉 両意匠に共通する基本的構成態様及び具体的態様が、両意匠の類否を決定する支配的要素であるとした判断は争う。

〈5〉 相違点についての類否判断及び結論は全て争う。

(2)  取消事由

審決は、両意匠の上記一致点として認定した態様は、両意匠のみに共通するものではなく、この種ガイドレール組立て材の普遍的構成態様の一態様にすぎないことを看過したため、その評価を誤り、これが両意匠の類否判断を決する支配的要素であると誤って認定し、さらに、両意匠の具体的態様における相違点として認定した部分にこそ機能的な差異が現れているため、これが看者に異なった美感を与えることを看過し、もって、両意匠は類似すると誤って判断したものであって、違法であるから、取り消されるべきである。

〈1〉 一致点の評価の誤り

審決は、(A)基部を、約上半分は開口部を下方に有する略倒コ字状とした下地枠材と、約下半分は開口部を右方に有する左右逆向きの略コ字状としたガイドレール枠材の二部材を係合合体し(審決書3頁3行ないし6行)、(B)上部には中空を、下部には右方開口部を有した略矩形状とし、その左右中間にそれぞれ係合合体部を設け(同3頁6行ないし9行)、(C)さらに、ガイドレール枠材の上下各辺の右端において小さなチャンネル型の案内溝を内方に向けて対設し形成した基本的構成態様(同3頁9行ないし11行)、及び、具体的態様のうち、(D)係合合体部につき、上半分を占める下地枠材では、その右辺部の中間から下端までを内方に向けて段差状に窪ませているガイドレール取付片を設け、またその左辺部の下端内方にガイドレール係合片を突設させており(同3頁13行ないし18行)、(E)それらの各片と係合するために下半分を占めるガイドレール枠材では、その上辺部の右端寄りから上方へやや長い係合片を、またその左端寄りから上方へ小さな係合片を突設している(同3頁18行ないし4頁2行)、以上(A)ないし(E)を両意匠の一致点として認定したうえ、これら一致点は「両意匠の形態上の基調を顕著に表出しているところであって、その結果、看者に対し両意匠の共通感をもたらすものであるから、両意匠の類否を決定する支配的要素と認められる。」(審決書5頁9行ない13行)であると認定したが、次のとおり誤りである。

(a) 基本的構成態様の認定について

審決が両意匠の一致点と認定した上記(D)及び(E)の点は、具体的態様としてではなく、基本的構成態様に含めて認定すべきである。

すなわち、両意匠に係る物品である「窓シャッターのガイドレール組立て材」(以下「本件物品」という。)は、シャッターカーテンを昇降案内するガイドレール枠材とこれを取り付けるための下地枠材とから成り、下地枠材は躯体に対してビス止め固定される取付面を有し、両部材はビス止めされる対向片同士の取付関係と凹凸片同士による係合関係で組付けされるものであって、これが物品本来の用途、機能であり、しかも、この両部材は仮組付けされた状態で取引され、これを現場で躯体に取付けする際に分離させて取付けするものであるから、両部材の係合関係に係る態様は、意匠の骨格をなすものとして把握すべきである。したがって、上記(D)及び(E)の点も、基本的構成態様に含めて認定すべきである

(b) 両意匠の支配的要素の認定について

審決が両意匠の一致点として摘示した上記(A)ないし(E)の態様は、両意匠にのみ共通する態様ではなく、本件物品を形成するにあたり、避けて通ることのできない意匠の骨格を成す構成態様、すなわち、本来機能的に要請される物品固有の一態様として、本願出願前すでに普遍的な周知の態様である(甲第3号証の第6図、同第4号証の参考図、同第5号証の第4図の符号9、同第7号証の参考図、同第8号証の第2図及び第3図、同第9号証の使用状態を示す参考図、なお、同第4号証と同第7号証とは同一の態様であり、同第8号証と同第9号証も同一の態様である。)から、両意匠の類否を決定する支配的要素ではない。

この種ガイドレール組立て材に係る意匠の創作は、このような普遍的な物品固有の構成態様を用いながらも、それとの対比において、如何に意匠的に外観を改善、変更して具現するかということが重要であるから、両意匠の類否を決定する支配的要素は、上記(A)ないし(E)の一致点にはなく、本件物品がガイドレール組立て材であることから、下地枠材とガイドレール枠材との係合関係などの物品の用途、機能について表現した具体的態様の相違点にあるものというべきである。

したがって、審決における両意匠の支配的要素についての認定は誤りである。

〈2〉 本願意匠と引用意匠との類否判断の誤りについて

(a) 類否判断の主体について

両意匠の類否判断において、その基準とすべき類否判断の主体となるのは、本件物品であるガイドレール組立て材を購入するシャッターの取付請負業者、建売り住宅供給業者、一般工務店等の建築専門業者たる取引者であるというべきである。

被告は、類否判断の主体を建築専門業者たる取引者に限定する理由はないと主張するが、本件物品は住宅用窓シャッターの構成部品の一部であって、末端需要者がこれらの部品を単品として購入することはあり得ず、これらの部品を単品として購入するのは、建築専門業者であることは明らかであるから、被告のかかる主張は、本件物品の取引の実態を無視したもので、失当である。

(b) 両意匠の具体的態様の相違点がもたらす美感の差異の評価の誤り及び両意匠の類否判断の誤りについて

(ⅰ) 物品の用途、機能と美感

意匠法2条1項の定義から明らかなように、意匠とは物品の外観から誘発される美感であると定義することができ、そして、意匠と物品とは一体不可分の関係にあり、しかも、物品には必ず一定の用途、機能を有しているものであるから、美感は当然に物品の用途、機能を含めたものとして把握すべきである。したがって、意匠法3条1項3号に基づく意匠の類否判断は、意匠に係る同一又は類似の物品において、物品本来の用途、機能に基づいてそこから導き出された一般需要者の立場からみた美感の類否を対比観察して行なわれるべきものであって、抽象的なモチーフ(形態)に対する態様や機能を具体的物品とは遊離させて、その斬新性や応用性の是非を問題とする同条2項とは異なるものというべきである。

しかるに、審決は、形態類否の視点のみにたって、物品の機能的な特徴からくる美感について考慮しなかった結果、両意匠の類否判断において、両意匠の具体的態様の相違点についての機能的差異がもたらす美感の差異を看過し、相違点についての認定及び判断を誤ったものである。

(ⅱ) 相違点の認定の誤り及び類否判断の誤り

(イ) 下地枠材のガイドレール取付片に関する相違点について

審決は、両意匠のガイドレール取付片について、段差状に窪ませた相違点があることは認定したが、その内容については、「本願の意匠は、その窪みの度合がやや奥行のある窪みであるため、ガイドレール枠材側の係合片との間に極細縦長長方形状の空洞部が出来るのに対し、引用の意匠はガイドレール枠材側の取付片の厚みだけの窪みであるため、空洞部を有さない」(審決書4頁5行ないし10行)として、両意匠の相違を窪みの度合いの差異として認識し、これを前提として、両意匠のガイドレール取付片における差異は、係合部の一部という限られた部位における微差に止まり、類否判断を左右しないと判断したが、かかる認定及び判断は誤りである。

すなわち、両意匠のガイドレール取付片の窪みの度合いは、ガイドレール枠材の上辺部右端寄り係合片が当接する厚み分として認識され、この点について両意匠間に差異はないが、両意匠の間にはガイドレール取付片の段差状に窪ませた当接面について、本願意匠では、この当接面を上下に残して中央部位に凹溝が形成され、ガイドレール枠材の上辺部右端寄り係合片を当接された際に空洞部が形成されるようになっているのに対し、引用意匠では、単に全体が平滑な当接面となっている点に差異があり、この凹溝の存在によって形成される空洞部がもたらす美感の差異を両意匠の類否判断において重視すべきである。

ガイドレール枠材の上辺部右端寄り係合片は、常に開口部を挟んで対向状態に位置するので、これをネジ固定する際、丸ネジを使用するとネジ頭が露出して外観上好ましくないから、同係合片に皿絞り加工を施して、ネジ頭が露出しない皿ネジを使用しようとした場合、同係合片の裏面側(ガイドレール取付片の当接面側)に皿絞り加工による突起ができるため、これを引用意匠のように単に全体が平滑な当接面となっているにすぎないガイドレール取付片に取り付けようとすると、取付片相互間の当接面への面接触ができないばかりか、左側辺部における係合片相互の係合すらできなくなり、組立て枠材としての機能が失われることになる。

本願意匠のガイドレール取付片の上記構成態様は、上記の不都合に対処するため、引用意匠に形状的な工夫を凝らして、ガイドレール枠材の上辺部右端寄り係合片に皿絞り加工による突起を設けた場合に同突起を収納するための空洞となるべき凹溝を形成したガイドレール取付片としての外観を呈するようにしたものである。

そうしてみると、このような当接面に空洞部を形成する凹溝の有無という形態の差異が本件物品の機能に大きな差異をもたらすことは明らかであり、建築専門業者である取引者が、この大きな差異を見逃すはずはなく、これらの係合部位における取付関係を十分考慮して商品選択の意思決定をするのが普通であるから、この形態の差異は、両意匠の類否を左右する大きな美観の差異となることは明らかである。

(ロ) 下地枠材のガイドレール係合片及びガイドレール枠材の上辺部左端寄り係合片に関する相違点について

審決は、両意匠における下地枠材のガイドレール係合片及びガイドレール枠材の上辺部左端寄り係合片について、それぞれ相違があることを認めたが、その内容については、下地枠材のガイドレール係合片につき、「本願の意匠は内方に湾曲した左方に開口部を有する小さな略半円形状片である」(審決書4頁10行ないし12行)、ガイドレール枠材の上辺部左端寄り係合片について、「本願の意匠は、左上方への弧状の小突片であるのに対し、引用の意匠は左上方へ倒L字状の小突片である」(審決書5頁2行ないし5行)と認定したうえ、これらの形状の差異については、「たしかにその差異は視認されるものの、半円形状、突状、弧状及び倒L字状のいずれの形状も係合部として取立てて特徴ある形状として評価できるものではなく、しかもそれらが基部の左辺中間の係合部という限られた部位における小さな突片の形状の差異であることから、いまだ両者の類否判断への影響は小さいものと云うほかない。」(審決書6頁10行ないし17行)と判断したが、かかる認定及び判断は誤りである。

本願意匠の下地枠材のガイドレール係合片については、引用意匠との対比において、約4倍の大きさで突設されており、ガイドレール枠材の上辺部左端寄り係合片についても、引用意匠との対比において、肉厚との関係で、約4倍の大きさで突設されており、本件物品がガイドレール組立て材であるという物品本来の用途、機能からすればこれを決して小さなものとはいい得ないから、審決の本願意匠の上記各係合片は小さいとの認定は誤りである。

本願意匠では、下地枠材のガイドレール係合片は、左方に開口部を有するU字状の略半円形状片として形成され、ガイドレール枠材の上辺部左端寄り係合片は、このU字状の略半円形状片の曲面に適合する係合溝を有する弧状片として形成されているため、略半円形状片の曲面に沿ってガイドレールを回動させながら取付けできるという形状的な工夫がなされた外観を呈しているのに対し、引用意匠では、下地枠材のガイドレール係合片は、その先端をL字状に折曲した突状片として形成され、ガイドレール枠材の係合片は、この突状片の板状面に適合する係合溝を有する倒L字状片が形成されているため、ガイドレールを右側方からの差し込みにより取り付ける外観を呈している点で相違する。

また、引用意匠は、下地枠材の躯体への取付面が平滑面状となっていることから生じる問題点によって、湾曲歪みが左側辺部に波及した際に、ガイドレール係合片が単に突状であり、ガイドレール枠材の係合溝との係合が差し込みによる嵌め合い方式であるため、歪みの影響を受けて、長尺なガイドレール枠材との嵌合ができる部位とできない部位が生じるので取付けづらいという形状のものであるのに対し、本願意匠は、長尺なガイドレール枠材であっても、それぞれの係合片を一対の関係で略半円形状と弧状とに形成したことにより、回動させて取付けできるという機能的な特徴を有する形状のものである。

本件物品の使用目的に照らすと、このような機能上の差異をもたらす形態上の差異を、取付け工事で使う部品の形状やサイズの違いに非常に敏感な商品購入者たる建築専門業者等の取引者が見逃すはずはなく、このような取引者は、これを美観の差異として認識したうえ、十分考慮して商品購入の意思決定をするのが普通である。したがって、この形態の差異は、両意匠の類否を左右する大きな美観の差異となることは明らかである。

審決には、かかる美観の差異を相違点として認定しなかった誤りがある。

(ハ) 下地枠材の上辺部の左右端部における突片に関する相違点について

審決は、両意匠の下地枠材上辺部に相違があることを認めたが、その内容については、「本願の意匠はその両端から上方に向けて各々極小突片を設けているのに対して、引用の意匠はそれらが存在しない」(審決書4頁14行ないし16行)と認定したうえ、この差異については、「それらが極めて局部的で、かつ極小な突片であることから類否判断への影響は殆どないものとしか云いようがない。」(同6頁18行ないし20行)と判断したが、かかる認定及び判断は誤りである。

まず、突片が極小であるか否かの問題は、両突片によって形成される凹面部を含めた上辺部全体の形状として把握し、これを物品の用途、機能からみた相関関係によって定めるべきものであるところ、かかる観点からみると、本願意匠の下地枠材の上辺部の左右端部における突片は決して極小のものといい得ないから、審決の上記認定は誤りである。

また、本願意匠は、両突片が躯体への当接片となって、中央凹面を躯体に当接させない形状となっているので、締付け応力による上辺部の両端縁が躯体から若干遊離するのを防止し、その湾曲歪みが左側辺部と右側辺部に波及しないよう形状的な工夫が成された外観を呈しているため、本願意匠の中央凹面を挟んで形成された左右の突片とから成る取付面としての構成態様と、引用意匠の単なる平滑な取付面のみの構成態様との間に明確な相違点が存するのであって、この相違点が大きな美感の差異となって表れ、かかる美感の差異がもたらす取付面の機能の違いを商品購入者たる建築専門業者である取引者が見逃すはずはなく、かかる違いを見極めて商品購入の意思決定を行なうものであるから、類否を判断する重要な要素となることは明らかである。

審決には、両意匠の下地枠材の上辺部が取付面となっていることを考慮せず、取付面の機能の違いに由来する美観の差異を相違点と判断しなかった誤りがある。

(ニ) ガイドレール枠材の下辺底面部に関する相違点について

審決は、両意匠のガイドレール枠材の下辺底面部に相違があることを認めたが、その内容については、「本願の意匠はその中央大部分を占めて広巾の凹部を設け、その結果、左右両端部分に巾狭の凸部を残し、さらに上記凹部面上左右両端寄りから2本の極小突片を設けているのに対し、引用の意匠はそれらが存在しない」(審決書4頁18行ないし5頁2行)と認定したうえ、これらの差異については、「その凹部の度合が極めて浅いもので、しかも突片もその浅い凹部内に設けられていることから極めて小さいもので、いずれも下辺肉厚内の半分以内における微細な態様であり、それらの変更も意匠の創作としては、ありふれた態様であって評価が低く、いまだ軽微な差にとどまり類否判断を左右するものに至っていない。」(審決書7頁2行ないし9行)と判断しているが、かかる認定及び判断は誤りである。

本願意匠のガイドレール枠材の下辺底面部の中央広巾の凹部(凹部面)左右両端に残された部分は、凹部面の巾に対してそれぞれ約2割5分の割合であるから、決して巾狭な凸部として認識されるものではなく、凹部面に対する帯状平面として認識すべきものであり、凹部面部の左右寄りに形成した凸部は、帯状平面と狭溝を介して突条と認識すべきものであり、ガイドレール枠材の正面視において、かかる狭溝を含めた帯状平面と突条とで模様態様を形成しており、しかもその模様態様は、ガイドレール枠材の加飾の外観を決定づける正面部全体に左右一対となるようバランス配置され、正面部の中心線上からみれば、その構成比は、それぞれ1:1となっていて、全体を単純な繰返しによる統一された凹凸面としてではなく、左右にバランスのとれた直線的でシンプルなアクセントラインとして、統一の中にも変化をもたせた意匠的まとまりが強調された外観を呈しており、ガイドレール枠材を全体としてみた場合、一つの意匠的まとまりをもった加飾の態様として表れている。さらに、その彫りの度合いは、ガイドレール組立て材を構成する各辺部の肉厚と略等しい厚さ(審決は、肉厚の半分以内と認定しているが、左側帯状面が他辺部の2倍の肉厚となっていることを誤認したものと思われる。)となっており、物品がひっかき傷程度の凹凸形状についても明確に成形できる押出し成形によって製作される型材に係るものであることからして、凹凸による立体感を表出するのに充分なものとなっている。

そうしてみると、このような加飾の態様が目立たないはずがなく、商品を購入する建築専門業者たる取引者がこの点を見逃すはずはなく、かかる違いを十分考慮して商品購入の意思決定をするのが普通である。したがって、この形態の差異は、両意匠の類否を左右する大きな美観の差異となることは明らかであるから、かかる加飾の態様の有無がもたらす美感の差異について判断すべきである。しかるに、審決は、かかる点についての判断をなさず、凹部面や突片が微細な態様であると認定し、類否判断を左右しないと判断しているが、かかる認定及び判断は、加飾の態様を構成する凹部面や突片を局部的にのみ注視して、平面幾何学的に観察したものであって、誤りである。

さらに、審決がありふれた態様で評価が低いと認定した点は、およそ物品の形状はありふれた要素を組み合わせて目的、用途等に対応した形状としているものであって、このような物品の一部分の形状のみを捉えて、引用意匠とは無関係に評価するものであり、引用意匠との対比観察によらない創作容易性に基づく判断要素をもって美感を評価することであるから、かかる審決の判断は誤りである。

第3  請求の原因に対する認否及び被告の反論

1  請求の原因1及び2は認め、3は争う。

2  被告の反論

(1)  一致点の評価について

審決は、本願意匠と引用意匠とを対比するにあたり、両意匠の形態全体を秩序づけ骨格となる態様を基本的構成態様と捉え、その余の各部の態様を具体的態様と捉えたのであり、かかる観点において、これらの認定に誤りはない。審決摘示の基本的構成態様及び具体的態様の一致点は、両意匠の形態上の基調を顕著に表出しており、両意匠の類否を決定する支配的要素であるという点において違いはないから、仮に、審決摘示の具体的態様の一致点を、基本的構成態様に含めたとしても、その結論において変わりはない。

なお、甲第4号証の参考図中のガイドレール枠材と係合する下地枠材は、その断面形状において、下辺の取付辺左端に左方に突出する突片を設け、右端部寄りには段差を形成してその尾端を右方にやや長く突出させた態様となっており、両意匠の一致点である「略倒コ字状とした下地枠材」と一致しているとはいい難い。さらに、審決は、両意匠の一致点として、その両側辺部の係合態様について、上部には、略倒コ字状の下地枠材によって中空が形成され、下部には、左右逆向きの略コ字状のガイドレール枠材によって右方開口部が形成され、全体が略矩形状を呈しており、その左右辺中間に、係合合体部が設けられと認定し、両部材の係合態様について、略直線状の態様を有する上辺及び下辺、その左右辺中間に係合部を設けたほぼ直線状の左右側辺部(右辺については、下部に開口部があるものの、その開口両端部がすぐ上の略一直線状の垂直線の延長上にある。)の四辺が略矩形をなした態様であることを認定しているが、同第4、第7ないし第9号証に表れた二部材の係合態様は、いずれも両部材が横方向にかなりずれて上下に係合されているか、開口部を有する側が、開口部の両端部が下地枠材の垂直面からやや大きく突出して係合されており、いずれも略直線状の四辺で囲まれた係合された略矩形状を見出すことはできない。また、甲第5号証の第4図の下地枠材は、その断面形状において、取付辺両端部に段差及び延長突片がある態様となっている点が、「略倒コ字状とした下地枠材」とはいい難い。したがって、審決摘示の両意匠の一致点をなす基本的構成態様及び具体的態様が周知であるとはいえない。

さらに、乙第1号証の第2図及び第3図中のガイドレール組立て材、乙第2号証の第4図中のガイドレール組立て材、乙第3号証の第1図ないし第4図中のガイドレール組立て材で明らかなように、建物用開口部又は窓用シャッターのガイドレール組立て材の分野において、両意匠の一致点として審決が摘示した構成態様とは、異なる種々の態様がみられるのであるから、かかる態様が、建物用シャッターのガイドレール組立て材において、意匠の骨格をなす本来機能的に要請される物品固有の一態様とはいい得ない。

仮に、上記態様が周知のものであったとしても、この周知の態様が意匠の要部となり得ないものではなく、周知の態様でない場合に比較してその重要性が相対的に低下するにすぎないものである。そして、両意匠を全体的に観察した場合に、上記態様が意匠全体の支配的部分を占め、かつ、意匠的まとまりを形成しており、他方、具体的態様の相違点が微差にとどまる場合には、やはり、上記態様が最も看者の注意を惹くところとなり、この点が類否判断を左右する支配的要素となるものであるところ、後で主張するとおり、両意匠の相違点は微差にとどまるものである。

したがって、審決摘示の両意匠の一致点を成す基本的構成態様及び具体的態様が両意匠の類否を決定する支配的要素であると認定した審決に誤りはない。

(2)〈1〉  類否判断の主体について

本願意匠及び引用意匠のような建物用窓シャッターのガイドレール組立て材の類否判断の主体である一般需要者とは、取付請負業者、建売り住宅供給業者、一般工務店等の建築専門業者たる取引者に限定するは理由はなく、施工取付けに至る前の一般流通業者や末端需要者等を含めた看者とするのが相当である。

〈2〉  審決は、本願意匠と引用意匠との相違点の評価を行なうにあたり、本願意匠に先行する本願意匠に係る物品が属する建築部材の分野の公知意匠を参酌して観察し、かかる相違点が結局のところ、いずれも本願意匠の特徴たるものといえず、また限られた部位における微差に止まり、意匠の類否の判断を左右する支配的要素ではないと判断したものであって正当である。

(a) 下地枠材のガイドレール取付片について

審決は、ガイドレール取付片とガイドレール枠材の上辺部右端寄り係合片が当接して係合する厚み部分についてのみ言及しているのではなく、「やや奥行のある窪みであるため、ガイドレール枠材側の係合片との間に極細縦長長方形状の空洞部が出来る」ものとして捉え、当接面とは別に凹溝が形成される態様を認定しているのであるから、その認定に誤りはない。

乙第4号証の類似1の意匠の使用状態を示す参考図中の二部材の係合部及び同第5号証の類似1の意匠の使用状態を示す参考図中の下部係合部から明らかなように、本願意匠と同様の用途、機能を持つ空洞部を形成する凹溝を設けることは、本願意匠の属する建築部材の分野においては、本願の出願前から普通に行なわれていることであり、また、それを本願意匠のようにすることも極めて容易になし得ることであるから、結局上記態様は新規性に欠け、その意匠的価値は低いものといわざるを得ないから、本願意匠の特徴ということはできず、意匠全体から観察すれば、限られた部位における微差にとどまり、いまだ類否判断を左右する程のものに至っていないものである。

(b) 下地枠材のガイドレール係合片及びガイドレール枠材の左端寄り係合片について

両意匠のガイドレール枠材の左端寄り係合片について、審決は、両意匠の全体観察を通じて、その部分を全体との関係で考察し、「小さな」と認定したのであって、両意匠全体の形状からみれば、限られた一部の部位を占めるにすぎない左端寄り係合片について、小さな係合片である点で両意匠が一致すると認定した審決に誤りはない。

本願意匠の下地枠材のガイドレール係合片は、その用途、機能の評価はさておき、形態全体から観察するときは、視覚的に比較的小さな又は極小の部分を占めるにすぎないものであるから、審決が、「小さな略半円形状片」と認定した点に誤りはない。

係合するパネルの二つの部材の一方を回動させて取り付け易くするという機能上、形態上の工夫については、本願意匠の属する建築部材の分野においては、本願の出願前から普通に行なわれていることであり(例えば、乙第6号証の第4図ないし第7図、同第7号証の第1図ないし第3図)、係合片を略半円形状にする機能上、形態上の工夫については新規性はない(例えば、同第8号証の第1図及び第2図、同第9号証の意匠の使用状態を示す参考図及びX-Y拡大断面図中の弧状片、同第10号証の類似1の正面図及び使用状態を示す参考図中の弧状片)。また、これらに多少の変更を施して本願意匠のようにすることも極めて容易になし得ることであるから、結局上記態様は新規性に欠け、その意匠的価値は低いものといわざるを得ないから、本願意匠の特徴ということはできず、意匠全体から観察すれば、限られた部位における微差にとどまり、いまだ類否判断を左右する程のものに至っていないものである。

(c) 下地枠材の上辺部の左右端部における突片について

本願意匠の下地枠材の上辺部の左右端部の突片は、その用途、機能の評価はさておき、形態全体から観察するときは、視覚的に比較的小さな又は極小の部分を占めるにすぎないものであるから、審決が、「極小突片」と認定した点に誤りはない。

本願意匠の上記突片が形態全体からみて極めて小さなものであるという点に加えて、取付面の両端に突片を設けて原告主張のような効果を持たせることは、本願出願前から普通に行なわれていること(例えば、乙第11号証の第2図及び第3図中の外枠4の取付面及び同第3号証の第1図ないし第4図中の取付基部1aの取付面)であって新規性に欠ける。また、これらに多少の変更を施して本願意匠のようにすることも極めて容易になし得ることであるから、結局上記態様は新規性に欠け、その意匠的価値は低いものといわざるを得ないから、本願意匠の特徴ということはできず、意匠全体から観察すれば、限られた部位における微差にとどまり、いまだ類否判断を左右する程のものに至っていないものである。

(d) ガイドレール枠材の下辺底面部について

下辺底面部の左右両端部分について、下辺全体に対しては各約1/6の幅しか有さない該部位を、審決が、「巾狭な凸部」と認定し、意匠全体から観察すれば極めて小さい左右両端寄りの凸部を「極小突片」と認定した点に誤りはない。

さらに、下辺部の凹面部の厚み及びその突起の凹部面からの高さは、下辺両端部の厚みの約半分程度であるから、審決の、「下辺肉厚内の半分以内」との認定に誤りはない。

審決は、本願意匠と引用意匠とを比較するにあたり、この種物品の形態上の特徴が長手方向に対する切断端面形状に集約されている事情に鑑み、両意匠の長手方向に対する切断端面形状について比較検討したものであって、単に平面図形や平面パターンを問題にしているのではない。また、両意匠のガイドレール枠材の下辺部の態様について、両意匠の全体観察を前提に、その主要な差異点について、その凹部の度合い、凹部と突片の関係、それらと下辺肉厚との関係及び大きさを、具体的、相対的に検討しているのであって、その一部を全体から切り離して、抽象的に論じているわけではない。

両端部に帯状面を、その間の凹面に狭溝を介してその突条を設けることにより凹凸縞状模様を形成することは、本願意匠に係る物品のような建築用長尺材の分野において、本願出願前から普通に行なわれていること(例えば、乙第12号証及び同第13号証)であり、中間部の突条の数を減ずることも、同様に普通のことである(例えば、同第14号証)。また、これらに多少の変更を施して本願意匠のようにすることも極めて容易になし得ることであるから、結局上記凹凸縞状模様は新規性に欠け、その意匠的価値は低いものといわざるを得ないから、本願意匠の特徴ということはできない。

第4  証拠関係

本件記録中の書証目録の記載を引用する(書証の成立については、いずれも争いがない。)。

理由

1(1)  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)及び2(審決の理由)は、当事者間に争いがない。

(2)  両意匠の一致点については、当事者間に争いがない(但し、具体的態様における一致点を基本的構成態様に含めずに認定した点及び両意匠におけるガイドレール枠材の上辺部左端寄り係合片を「小さな」と認定した点を除く。)。

2  原告主張の審決の取消事由について検討する。

(1)  一致点の評価について

〈1〉  原告は、審決が一致点と認定した態様のうち、具体的態様と認定した点も基本的構成態様に含めて認定すべき旨主張するので検討する。

当事者間に争いのない審決の理由及び両意匠の形態によれば、審決は、本願意匠と引用意匠とを対比するにあたり、下地枠材とガイドレール枠材との両部材を組付けされた状態で、その長手方向に対する各切断端面形状を両意匠の形態上の特徴を端的に集約しているものとして観察し、両意匠の形態全体の骨格となる態様を基本的構成態様と捉え、その余の各部の態様を具体的態様と捉えたものと認められ、このような観点において、審決の認定に誤りはない。また、仮に原告主張のように、係合関係に係る態様も基本的構成態様と捉えて、一致点を認定すべきであるとしても、審決は、これらをあわせて両意匠の類否を決定する支配的要素であると認定しているのであるから、両意匠が類似するとの結論に影響を及ぼすものとは認められない。したがって、かかる認定の誤りをいう原告の主張は失当である。

〈2〉  原告は、両意匠の一致点は、ガイドレール組立て材の普遍的な周知の構成態様であるから、両意匠の類否を決定する支配的要素ではないと主張し、その根拠として、甲第3号証の第6図、同第4号証の参考図、同第5号証の第4図の符号9、同第7号証の参考図、同第8号証の第2図及び第3図、同第9号証の使用状態を示す参考図を挙げるので、検討する。

(a) 甲第3号証(実開昭59-96294号公報)に係る考案は原告の出願に係るものであり、同号証の第6図に示されたガイドレール枠材と下地枠材とが係合した意匠は長手方向に対する切断端面形状を別紙2で示すとおりとしたもの(以下「意匠(a)」という。)と認められ、躯体への取付面に突片が二箇所上方に突出している点を除いて引用意匠(同号証の第5図に記載されている。)と同じ態様(ガイドレール側の係合片及びガイドレール係合片の態様が必ずしも同一ではないがほぼ同じと認められる。)のものであることが認められる。

しかしながら、意匠(a)は、躯体への取付面に突片が二箇所上方に突出している点を除いて引用意匠と同じ態様であるが、同意匠は引用意匠と同じ公報に記載されている意匠であるから、引用意匠の基本的構成態様が一致しても、かかる態様が周知であるとの判断の基礎とはなり得ない。

(b) 甲第4号証(昭和50年8月29日発行の意匠登録第403472号の意匠公報)及び同第7号証(昭和50年8月29日発行の意匠登録第403473号の意匠公報)に係る意匠はいずれもトーヨーサッシ株式会社の出願に係るものであり、それぞれの参考図(いずれも同一の態様であると認められる。)に示されたガイドレール枠材と下地枠材とが係合した意匠は、長手方向に対する切断端面形状を別紙3で示すとおりとしたもの(以下「意匠(b)」という。)であることが認められる。(以下において、意匠(b)を180度回転させ、左右を逆転させて、躯体への取付け側を上辺部、ガイドレール枠材の開口部を右辺に設けたものとして観察する。)

しかしながら、意匠(b)の下地枠材では、その長手方向に対する切断端面形状において、その上辺部の左端部に突出する突片を設け、右端部寄りに段差を形成してその尾端を右方に左右側辺の間の長さの約三分の一程度の延長部を設けた態様となっており、その下辺部左端は右方に短い折曲部を設けた態様となっており、両意匠の一致点である「略倒コ字状とした下地枠材」(審決書3頁4行)というには無理がある。

次に、同意匠のガイドレール枠材と下地枠材との係合態様をみるに、両部材が横方向にかなりずれて上下に係合されていると認められ、両意匠の一致点である「上部には中空を、下部には右方開口部を有した略矩形状とし」(審決書3頁6行ないし8行)た構成とは認め難い。

(c) 甲第5号証の1(実開昭56-70089号公報)に係る意匠はナショナル住宅建材株式会社の出願に係るものであるが、その第4図(同号証の2及び3は同図の拡大図)に示された下地枠材とガイドレール枠材とが係合した意匠は、長手方向に対する切断端面の形状を別紙4で示すとおりとしたもの(以下「意匠(c)」という。)であると認められる。(以下において、意匠(c)をその左側に位置する部分について観察する。)

しかしながら、意匠(c)の下地枠材は、上辺両端部に段差及び延長突片を設けた態様となっており、両意匠の一致点である「略倒コ字状とした下地枠材」というには無理がある。

(d) 甲第9号証(昭和57年9月24日発行の意匠登録第403472の類似1号の意匠公報)に係る意匠はトーヨーサッシ株式会社の出願に係るものであり、同第9号証の使用状態を示す参考図に記載された下地枠材とガイドレール枠材とが係合した意匠は、長手方向に対する切断端面の形態を別紙5で示すとおりとしたもの(以下「意匠(d)」という。)であることが認められる(同第8号証((実開昭54-183955号公報))の第2図及び第3図に示された下地枠材とガイドレール枠材とが係合した意匠は、意匠(d)と同一の態様である旨原告が自認する。)。(以下において、意匠(d)を180度回転させ、左右を逆転させて、躯体への取付け側を上辺部、ガイドレール枠材の開口部を右辺に設けたものとして観察する。)

しかしながら、意匠(d)の下地枠材は、上辺部の左端部に突出するL字形の突片を設け、右端部に左右側辺の間の長さの約三分の二程度のL字形の延長部を設けた態様となっており、両意匠の一致点である「略倒コ字状とした下地枠材」というには無理がある。また、同意匠のガイドレール枠材と下地枠材との係合態様をみるに、ガイドレール枠材の開口部を有する側が、下地枠材の側辺の垂直面からやや大きく突出して係合されているものと認められ、両意匠の一致点である「上部には中空を、下部には右方開口部を有した略矩形状」を成しているとは認められない。

以上の諸点に乙第1及び第11号証(実開昭49-104936号公報及び実公昭52-41726号公報)の各第2、第3図、同第2号証(実開昭53-73744号公報)の第4図、同第3号証(実開昭58-85086号公報)の第1ないし第4図(いずれも意匠に係る物品がシャッターのガイドレール組立て材と認められる。)によると本件物品の分野において、審決が両意匠の一致点として認定したものとは異なる各種の態様のものが見られることが認められることをあわせ考えると、審決が両意匠の一致点として摘示した基本的構成態様及び具体的態様は、全体として、本件物品について機能的に要請される固有の普遍的な周知の態様とは認められない。

したがって、審決が、両意匠の一致点と認定した態様をもって両意匠の支配的要素であると認定したことに誤りはなく、原告のこの点についての主張は理由がない。また、仮に、原告主張の態様が周知の態様であったとしても、後記(2)〈2〉のとおり、両意匠の相違点がもたらす美感が一致点がもたらす美感を凌駕するに足りず、微差に止まるものであるから、両意匠の一致点が両意匠の類否を決定する支配的要素となることに変わりはない。

(2)  本願意匠と引用意匠との類否判断について

〈1〉類否判断の主体について

類否判断の主体となる看者は、意匠に係る物品の性質、用途等に照らし、この種物品の取引に関与する建築専門業者(流通業者、取付請負業者等を含む。)であると認められる。被告は看者に施工取付けに至る前の一般流通業者や末端需要者等が含まれると主張するが、甲第15号証(昭和56年1月20日発行の原告の住宅用窓シャッターに係るパンフレット)によれば、本願意匠及び引用意匠に係る物品であるガイドレール組立て材は、住宅用窓シャッターの構成部品の一部であることが認められ、これがこの種物品の取引に関与する建築専門業者(流通業者、取付請負業者等を含む。)以外の一般流通業者や末端需要者等に単品として購入されることはあり得ないと認められるから、被告のかかる主張は理由がない。

〈2〉  両意匠の相違点の類否判断について

原告は、審決は、形態類否の視点のみにたって、物品の機能的な特徴からくる美感について考慮しなかった結果、両意匠の類否判断において、両意匠の具体的態様の相違点についての機能的差異がもたらす美感の差異を看過し、相違点についての判断を誤ったと主張する。

しかしながら、意匠法3条1項3号に規定する類似性の判断は、看者の立場からみた美感、すなわち、看者に与える視覚的印象の類否の判断であると解され、機能の差異をもたらすような外観を与える形状の特徴が、看者に強い視覚的印象を与え、その意匠に係る物品の選択の意思決定に影響を及ぼす場合、かかる特徴が、意匠の類否の判断に大きく影響することは否定できないが、このことは、機能の差異をもたらすような外観を与える形状の特徴が、全体の中でいかに小なるものであっても、当然に全体の美感を左右することを認めるものではない。

審決は、後記のとおり、本願意匠と引用意匠との相違点を検討して、相違点がもたらす美感は、一致点がもたらす美感を凌駕するに足りず、微差に止まり、類否判断を左右するものではないと判断したのであって、両意匠の相違点についての機能的差異がもたらす美感の差異を看過したものではない。

したがって、審決の認定及び判断は正当であって、原告の主張は理由がない。

(a) 下地枠材のガイドレール取付片に関する相違点について

原告は、本願意匠の下地枠材のガイドレール取付片の凹溝により形成された空洞部は、ガイドレール枠材の上辺部右端寄り係合片に皿絞り加工を施して、ネジ頭が露出しない皿ネジを使用しようとした場合に、同係合片の裏面側(ガイドレール取付片の当接面側)に生ずる皿絞り加工による突起を収納する機能を有する外観を呈しているから、この空洞部を形成する凹溝の有無が本件物品の機能に大きな差異をもたらすことが明らかであり、この形態の差異が建築専門業者である看者にとって、大きな美感の差異になることは明らかであると主張する。

原告主張のガイドレール取付片の凹溝により形成された、空洞部の機能は、ガイドレール枠材の上辺部右端寄り係合片との係合態様に由来する機能であると解されるところ、本願意匠におけるかかる空洞部の外観が看者に皿絞り加工による突起を収納する機能を有するものとしての印象を与えるのは看者(前記〈1〉のとおり、類否判断の主体である看者とすべき者は、この種物品の取引に関与する建築専門業者というべきところ、かかる建築専門業者は建築部材一般についても知識を有すると認められる。)にとってかかる機能が周知であったことによるものといわざるを得ない。しかして、乙第4号証(昭和52年7月16日発行の登録意匠第449725の類似1号の意匠公報)の意匠の使用状態を示す参考図に記載された二部材の係合部の形態及び同第5号証(昭和56年7月29日発行の登録意匠第546307の類似1号の意匠公報)の意匠の使用状態を示す参考図に記載された下部係合部の形態によれば、二つの部材を係合する場合、本願意匠と同様の用途、機能を持つ空洞部を形成する凹溝を設けることは、建築用型材の分野においては、本願の出願前から普通に行なわれていることであると認められ、看者にとって、建築用型材の分野においてかかる周知の形状を建築用型材の一つであるガイドレール枠材組立て材に施されていても、その意匠的価値は低く、格別注意を惹くものではないし、また、周知の形状が局部的で微細である場合は、なおさら、看者の注意を惹き難いものであることは明らかである。

しかして、前記本願意匠及び引用意匠の各形態によれば、下地枠材のガイドレール取付片の窪みの度合及び空洞部の有無にみられる差異は、その窪み及び空洞部を特に注視して観察した場合に認められる程度のものと認められるから、本願意匠の下地枠材のガイドレール取付片の凹溝により形成された空洞部がもたらす美感の差異は、意匠全体から観察すれば、限られた部位における微差にとどまり、いまだ類否判断を左右する程のものに至っていないものであると認められる。

したがって、原告の上記主張は理由がない。

(b) ガイドレール枠材の上辺部左端寄り係合片及び下地枠材のガイドレール係合片に関する相違点について

前記本願意匠及び引用意匠の各形態によれば、長手方向に対する切断端面形状において、本願意匠では、下地枠材のガイドレール係合片は、引用意匠のそれとの対比において、約4倍の大きさをもって、左方に開口部を有する略半円形状片として形成され、ガイドレール枠材の上辺部左端寄りの係合片は、引用意匠のそれとの対比において、約4倍の大きさとなっており、略半円形状片の曲面に適合する係合溝を有する弧状の突片の形状となっているのに対し、引用意匠では、下地枠材のガイドレール係合片は、倒L字状の突状片として形成され、ガイドレール枠材の係合片は、この突状片の板状面に適合する係合溝を有する左上方への倒L字状の突片である点で相違すると認められる。

原告は、まず、両意匠の下地枠材のガイドレール係合片及びガイドレール枠材の上辺部左端寄り係合片について、本件物品がガイドレール組立て材であるという物品本来の用途、機能からすれば、これらを決して「小さな」ものとはいい得ないにもかかわらず、「小さな」係合片あるいは「小」突片と認定した審決は誤りであると主張する。

しかしながら、前記両意匠の各形態によれば、両意匠のガイドレール枠材の上辺部左端寄り係合片には、約4倍の大きさの違いがあるとはいえ、それは、長手方向に対する切断端面における両意匠全体の形状から観察すれば、ガイドレール組立て材の限られた一部の部位を占めるにすぎないと認められ、両意匠のガイドレール枠材の左端寄り係合片について、「小さな」係合片を突設している点で一致すると認定し、かかる認定を前提として、本願意匠のガイドレール枠材の上辺部左端寄り係合片を「弧状の小突片」、引用意匠のそれを「倒L字状の小突片」と認定した審決に誤りはないから、原告のこの点についての主張は理由がない。

次に、原告は、引用意匠は、下地枠材の躯体への取付面が平滑面状となっていることから生じる問題点によって、湾曲歪みが左側辺部に波及した際に、ガイドレール係合片が単に突状であり、ガイドレール枠材の係合溝との係合が差し込みによる嵌め合い方式であるため、歪みの影響を受けて、長尺なガイドレール枠材との嵌合ができる部位とできない部位が生じるので取付けづらいという形状のものであるのに対し、本願意匠では、長尺なガイドレール枠材であっても、それぞれの係合片を一対の関係で略半円形状と弧状とに形成したことにより、回動させて取付けできるという機能上の差異があり、看者に異なった美感を与えると主張する。

たしかに、本願意匠の下地枠材のガイドレール係合片及びガイドレール枠材の上辺部左端寄りの係合片は原告主張のような回動取付けができるように工夫した外観を呈するものであることは認められるが、前掲甲第3号証の第6図及び乙第7号証(実開昭57-14056号公報)の第1図ないし第3図によれば、引用意匠のL字型の係合片同士においても、回動取付けをなすことができることが認められるから、両意匠の各係合片の形状に、原告主張のような機能上の差異が截然として認められるとは考えられない。そうすると、看者が当然に、原告主張のように、下地枠材のガイドレール係合片及びガイドレール枠材の左端寄りの係合片の形状の違いからその取付け方式の違いに注目し、これが美感の顕著な差異として印象付けられるとは認めることはできない。

また、乙第6号証(実開昭58-11512号公報)の第4図ないし第7図、前掲同第7号証の第1図ないし第3図、同第8号証(実開昭58-172646号公報)の第1図及び第2図、同第9号証(昭和59年8月1日発行の登録意匠第630627号の意匠公報)の意匠の使用状態を示す参考図及びX-Y拡大断面図中の弧状片、同第10号証(昭和59年12月19日発行の登録意匠第640803の類似1号)の正面図及び使用状態を示す参考図中の弧状片によれば、係合するパネルの二つの部材の一方を回動させて取り付け易くするという機能上、形態上の工夫については、建築部材の分野においては、本願の出願前から普通に行なわれていることであると認められるから、このような建築部材の分野において周知の回動取付け方式を、ガイドレール組立て材の部材の取付け方式に用いたとしても、建築専門業者である看者にとって、両意匠を対比すれば、原告主張のような機能的効果を得るために部分的改変を加えたものとの印象を与えるにすぎず、かかる部分が他の部分に比べて小さい場合などは、格別注意を惹くものではなく、また、その印象に残り難いものであることは明らかである。

そして、本願意匠の下地枠材のガイドレール係合片及びガイドレール枠材の上辺部左端寄りの係合片は、前記のとおり、長手方向に対する切断端面形状において、原告主張のように、本願意匠の各係合片が引用意匠のそれぞれの突片との対比では、肉厚との関係で約4倍の大きさとなっていることが認められるが、両意匠の一致点である略矩形状の全体部分に比べて小さなものであり、両意匠を全体として観察して対比した場合、限られた部位における微差にとどまり、両意匠の上記差異に由来する美感の差異は、いまだ類否判断を左右する程のものに至っていないものである。

したがって、原告の上記主張は理由がない。

(c) 下地枠材の上辺部の左右端部における突片に関する相違点について

原告は、まず、本件物品が、ガイドレールを取付けするための下地材であるという物品本来の用途、機能の観点からみると 本願意匠の下地枠材の上辺部における左右端部における突片は、決して「極小突片」であるとはいい得ず、審決は、大きさについての認定を誤っていると主張する。

しかしながら、前記本願意匠の形態によれば、本願意匠の長手方向に対する切断端面形状における下地枠材の上辺部の左右端部の突片は、切断端面形状における形態全体から観察するときは、視覚的に比較的小さな又は極小の部分を占めるにすぎないものであるから、審決が、「極小突片」と認定した点に誤りはない。

次に、原告は、下地枠材の上辺部両端部にみられる突片の躯体への当接面としての機能を挙げて、引用意匠との美感の差異を主張する。

しかしながら、前記本願意匠の形態によれば、本願意匠の長手方向に対する切断端面形状における下地枠材の上辺部両端部に設けられた両突片は、両意匠の一致点である略矩形状の全体部分に比べると、極めて小さく、注意深く観察して始めて判然とする程度の形状であり、看者にそれほど強い印象を与えるものではなく、意匠全体の美感に与える影響は少ないものと認められる。

そして、本願意匠の下地枠材の上辺部両端部に設けられた両突片が、原告主張のような機能的効果を有している外観を呈しているとしても、本願意匠の上記両突片が形態全体からみて極めて小さなものであるという点に加えて、前掲甲第3号証の第6図、乙第11号証(実公昭52-41716号公報)の第2図及び第3図中の外枠4の取付面、及び、前掲同第3号証の第1図ないし第4図中の取付基部1aの取付面をみれば、シャッターのガイドレール組立て材において、取付面の両端に突片を設けて原告主張のような効果を持たせることは、本願出願前から普通に行なわれていたものと認められるから、このような突片を設けたとしても、看者にとって、両意匠を対比すれば、原告主張のような機能的効果を得るために部分的改変を加えたものとの印象を与えるにすぎず、その意匠的価値は低いものといわざるを得ないから、本願意匠の特徴ということはできず、意匠全体から観察すれば、限られた部位における微差にとどまり、両意匠の上記差異に由来する美感の差異は、いまだ類否判断を左右する程のものに至っていないものである。

したがって、原告の上記主張は理由がない。

(d) ガイドレール枠材の下辺底面部に関する相違点について

まず、原告は、ガイドレール枠材の長手方向に対する切断端面形状における下辺底面部の左右両端の凸部は巾狭なものではなく、中央の凹部面の左右寄りに形成した凸部は極小なものではなく、それぞれ、正面視における凹部面に対する帯状平面及び帯状平面と狭溝を介して突状となる模様態様として認識すべきであると主張する。

しかしながら、前記本願意匠の形態によれば、本願意匠の長手方向に対する切断端面形状における下辺底面部の中央部分の凹部の左右両端寄りの凸部は中央部分の凹部の肉厚と同程度あるいはそれよりも若干小なる高さの突片であると認められ、その左右の部分は中央部分の凹部と同じ浅さの狭溝を形成し、左右両端部は上記突起と同じ高さであって下辺全体に対しては各約1/6強の幅を有する凸部を形成していると認められ、いずれの凸部も本願意匠の長手方向に対する切断端面全体から観察すれば極めて小さいと認められるから、審決が、前者の凸部を「極小突片」と認定し、後者の凸部を「巾狭な凸部」と認定した点に誤りはない。

次に、原告は、下辺底面部の上記態様をガイドレール枠材の正面視における加飾の外観を決定づける模様態様として、その美感の差異を評価すべきであると主張する。

しかしながら、審決は、本願意匠と引用意匠とを比較するにあたり、本件物品の形態上の特徴が長手方向に対する切断端面形状にあり、かかる形状が看者に与える印象が強いと判断したうえ、両意匠の長手方向に対する切断端面形状について比較検討しているものと認められるところ、上記のとおりの巾狭な凸部及び極小突片によって形成される正面視における凹部面に対する帯状平面及び帯状平面と狭溝を介して突状となる模様態様は、本件物品についてみた場合、その巾及び突起の程度からして、看者に与える印象は強いものではなく、両意匠を対比するについて、微差に止まり、類否判断への影響はないと認められる。したがって、原告のこの点についての主張は理由がない。

原告は、さらに、審決がありふれた態様で評価が低いと判断した点を捉えて、かかる審決の判断は物品の一部分の形状のみを捉えて、引用意匠とは無関係に評価するものであり、引用意匠との対比観察によらない創作容易性に基づく判断要素をもって美感を評価することであるから、誤りであると主張する。

しかしながら、意匠を構成するある部分の形状が当該物品の形状として周知のものである場合は、そうでない場合に比べて看者の注意を惹き難く、また、その印象に残り難いことのあることはいうまでもない。

しかして、乙第12号証(昭和51年3月6日発行の登録意匠第418430号の意匠公報)、同第13号証(昭和52年3月31日発行の登録意匠第445995号の意匠公報)及び同第14号証(昭和52年10月14日発行の登録意匠第458867号の意匠公報)によれば、両端部に帯状面を、その間の凹面に狭溝を介してその突条を設けることにより凹凸縞状模様を形成することは、本願意匠に係る物品のような建築用型材の分野において、本願出願前から普通に行なわれていることであると認められる。

そして、建築専門業者である看者にとって、両意匠を対比するについて、建築用型材の分野において周知の形状をガイドレール枠材組立て材に施されていても、格別注意を惹くものではなくその印象に残り難いものであることは明らかである。審決はかかる点を考慮して、ありふれた模様であって評価が低いと判断したものであって、物品の一部分の形状のみを捉えて、引用意匠とは無関係に評価したものではない。したがって、原告のこの点についての主張は理由がない。

(3)  したがって、審決が両意匠は全体として類似すると判断したことに誤りはない。

3  よって、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 押切瞳)

別紙1 説明図

〈省略〉

別紙2

〈省略〉

別紙3

〈省略〉

別紙4

〈省略〉

別紙5

〈省略〉

平成3年審判第1859号

審決

東京都新宿区西新宿2丁目1番1号

請求人 三和シヤツター工業 株式会社

東京都文京区小石川2丁目1番2号 山京ビル 稲葉特許事務所

代理人弁理士 稲葉昭治

昭和60年意匠登録願第25581号「建物用窓シヤツターのガイドレール組立て材」拒絶査定に対する審判事件について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

理由

本願は、昭和60年6月17日の意匠登録出願であって、その意匠は、願書の記載及び願書添付の図面によれば、意匠に係る物品を「建物用窓シャッターのガイドレール組立て材」とし、形態を別紙第一に示すとおりとしたものである。

これに対し、原審において拒絶の理由として引用した意匠は、本願出願前の昭和59年6月29日公開、特許庁発行の公開実用新案公報所載の昭和59年実用新案出願公開第96294号(考案の名称「窓シャッターの取付装置」)の第5図〈3〉に示された意匠であって、同公報の記載によれば、意匠に係る物品は、いわゆる「窓シャッターのガイドレール組立て材」であり、形態を別紙第二に示すとおりとしたものである。

そこで、本願の意匠と引用の意匠とを比較すると、両意匠は、意匠に係る物品が共通するものである。

形態については、全体を肉薄状に一体に成形し、長手方向に連続する長尺材であって、長手方向に対する切断端面形状(本願の意匠では左へ180°回転した平面図、引用の意匠では5図〈3〉を対象とする)は、基部を、約上半分は開口部を下方に有する略倒〈省略〉字状とした下地枠材と、約下半分は開口部を右方に有する左右逆向きの略〈省略〉字状としたガイドレール枠材の2枠材を係合合体し上部には中空を、下部には右方開口部を有した略矩形状とし、その左右辺中間にそれぞれ係合合体部を設け、さらに、ガイドレール枠材の上下各辺の右端において小さなチャンネル型の案内溝を内方に向けて対設し形成した基本的構成態様と認められる点が共通するものである。

そして、各部の具体的態様における係合合体部につき、上半分を占める下地枠材では、その右辺部の中間から下端までを内方に向けて段差状に窪ませているガイドレール取付片を設け、またその左辺部の下端内方にガイドレール係合片を突設させており、そしてそれらの各片と係合するために下半分を占めるガイドレール枠材では、その上辺部の右端寄りから上方へやや長い係合片を、またその左端寄りから上方へ小さな係合片を突設している点についても共通するものである。

一方、相違点としては、各部の具体的態様のうち、〈1〉下地枠材において、〈イ〉ガイドレール取付片について、本願の意匠はその窪みの度合がやや奥行のある窪みであるため、ガイドレール枠材側の係合片との間に極細縦長長方形状の空洞部が出来るのに対して、引用の意匠はガイドレール枠材側の取付片の厚みだけの窪みであるため、空洞部を有さない点、〈ロ〉ガイドレール係合片について、本願の意匠は内方に湾曲した左方に開口部を有する小さな略半円形状片であるのに対し、引用の意匠は内方に直角に折曲した小さな突状片である点、〈ハ〉上辺部について、本願の意匠はその両端から上方に向けて各々極小突片を設けているのに対して、引用の意匠は、それらが存在しない点、〈2〉ガイドレール枠材において、〈イ〉下辺底面部について、本願の意匠はその中央大部分を占めて広巾の凹部を設け、その結果、左右両端部に巾狭の凸部を残し、さらに上記凹部面上左右両端寄りから2本の極小突片を設けているのに対して、引用の意匠は、それらが存在しない点、〈ロ〉上辺部の左端寄り係合片について、本願の意匠は、左上方への弧状の小突片であるのに対し、引用の意匠は左上方への倒L字状の小突片である点において相違するものである。

そこで、両意匠の形態上の共通点及び相違点を総合して検討すると、両意匠に共通するとした全体の基本的構成態様及び具体的態様は、両意匠の形態上の基調を顕著に喪出しているところであって、その結果、著者に対し両意匠の共通感をもたらすものであるから、両意匠の類否を決定する支配的要素と認められる。

これに対し、両意匠において相違する、〈1〉〈イ〉の下地枠材のガイドレール取付片の窪みの度合及び空洞部の有無にみられるの差異は、その窪み及び空洞部を取上げ注視して観察した場合にその差異が認められる程度のものであって、両者に共通するガイドレール取付片部を段差状に窪ませた点が惹き起こす強い共通感の中での差異であって、仮令請求人代理人が主張するように本願意匠の窪み及び空洞部が取付ネジの頭部を突出させないための機能的効果を使用時に有するとしても、組立て枠材として観た場合、上記の効果が外観に及ぼす影響はほとんどなく、意匠全体から観れば係合部の一部という限られた部位における微差に止まり、いまだ類否判断を左右する程のものに至っていない。〈1〉〈ロ〉の下地枠材ガイドレール係合片及び〈2〉〈ロ〉のガイドレール枠材上辺部左係合片の形状の差異については、たしかにその差異は視認されるものの、半円形状、突状、弧状及びL字状のいずれの形状も係合片として取立てて特徴ある形状として評価できるものでなく、しかもそれらが基部の左辺中間の係合部という限られた部位における小さな突片の形状の差異であることから、いまだ両者の類否判断への影響は小さいものと云うほかない。〈1〉〈ハ〉の下地枠材上辺部両端部の突片の有無にみられる差異に至っては、それらが極めて局部的で、かつ極小な突片であることから類否判断への影響は殆んどないものとしか云いようがない。〈2〉〈イ〉のガイドレール枠材の下辺部の凹部面や極小突片の有無についての差異は、その凹部の度合が極めて浅いもので、しかも突片もその浅い凹部内に設けられていることから極めて小さいもので、いずれも下辺肉厚内の半分以内における微細な態様であり、それらの変更も意匠の創作としては、ありふれた態様であって評価が低く、いまだ軽徴な差にとどまり類否判断を左右するものに至っていない。

そして、これらの相違点を総合しても、両意匠の共通点を凌駕して別異の意匠を構成するほど顕著なものではなく、両意匠の類否の判断に重要な影響を及ぼすものであるとはいい難い。

以上述べたとおりであって、両意匠は、意匠に係る物品が共通し、形態においても、形態上の基調を顕著に表出し類否を左右する支配的要部が共通するのに対し、相違点はいまだ両意匠の基調を打破するまでには至っていないものであるから、結局、両意匠は全体として類似するものというほかはない。

したがって、本願の意匠は、本願の出願前に公開された公開実用新案公報に記載された意匠に類似するものであるから、意匠法第3条第1項第3号に該当し、意匠登録の要件を具備しないものであるから、登録をうけることができない。

よって、結論のとおり審決する。

平成5年1月28日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

別紙第一 本願の意匠

意匠に係る物品説明建物用窓(タテヤノロウマド)シヤッターのガイドレール組立て材(クミタデイ)

底面図は平面図と対称にあらわれる。

〈省略〉

別紙第二 引用の意匠

意匠に係る物品 窓シヤツターの取付装置

〈省略〉

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